FSHD ニュースレター特別号 – 2025年10月発行
- FSHDJapan
- 4 日前
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FSHD JAPAN ニュースレター特別号
2025年5月に開催された療育研修会では、国内外の第一線で活躍される先生方をお招きし、FSHDおよび筋疾患に関する最新の研究・診療・リハビリの取り組みについて学びました。
本号では、その講演内容をまとめ、皆さまにご紹介いたします。
講演報告①
「筋ジストロフィーにおける理学療法の実際」
講師:西澤 公美 先生(信州大学医学部保健学科 理学療法学専攻 教授)
講演のポイント
◇長野県での取り組み
専門病院がない中、多職種連携による「筋ジストロフィー診療ネットワーク」を設立。
医師・療法士・学校が協力し、地域全体で患者を支える体制を構築。
◇理学療法の基本と限界
日本の制度上、理学療法士は医師の処方が必要で独立開業不可。
その制約下でも生活の質向上を目指し工夫を重ねている。
◇評価と介入の実際
評価:NSAA、6分間歩行、筋力・呼吸機能測定。
介入:ライトスプリント、ストレッチ、学校との連携支援。
◇課題と新しい挑戦
疲労を考慮した運動強度調整の難しさ。
関節拘縮の原因解明。
電気刺激を用いた新しい試み。
コロナ禍による身体機能低下調査。
◇運動療法の可能性
有酸素運動・インターバルトレーニングの効果。
筋再生細胞活性化やテロメア維持との関連が報告。
◇実践的提案
中等度の運動(最大心拍数60〜75%)を推奨。
個別プログラムで安全性を確保。
腹式呼吸を意識した準備運動が有効。
◇楽しく続ける工夫
eスポーツで認知機能維持。
車いすスキーやHALによる歩行補助。
◇まとめ
「楽しく・安全に・長く続けられる理学療法」が重要。専門家の支援と家族の協力のもと、前向きに取り組める環境づくりが鍵。
講演報告②
「骨格筋の健康を支える運動と栄養の基礎知識」
講師:金指 美帆 先生(県立広島大学)
講演のポイント
◇筋肉の役割
筋肉は運動機能だけでなく、代謝調整やマイオカイン分泌を通じて全身に影響。
遅筋と速筋の割合は、栄養や運動の種類によって変化。
◇栄養と筋肉
朝のたんぱく質摂取は1日の筋合成を高めるうえで効果的。
高齢者や筋機能が低下した人は、一般より多めのたんぱく質摂取が推奨される。
糖質を併用するとインスリン作用によりアミノ酸の取り込みが促進される。
過度な加熱調理は糖化を進め、筋や血管に悪影響を及ぼす可能性がある。
◇運動の工夫
レジスタンス運動は筋肥大を促す。
有酸素運動は毛細血管の増加やミトコンドリアの活性化に寄与する。
筋の回復や成長には、血流の改善と毛細血管の再生が重要。
◇電気刺激療法
自力での運動が難しい場合、電気刺激療法が有効。
低周波数(1Hz前後)は持久的刺激、高周波数(50Hz前後)は筋肥大促進に寄与する。
◇抗酸化栄養素
抗酸化成分を含む食品は酸化ストレスを軽減し、筋や血管の保護に役立つ。
◇まとめ
運動と栄養の最適なバランスは一人ひとり異なる。
継続可能な運動や栄養の工夫で筋の質を保つことが、健康維持と老化予防に直結。
講演報告③
「DNAメチル化の意義とFSHD」
講師:岸本 拓実 先生(京都大学 iPS細胞研究所 博士課程研究員)
講演のポイント
◇DNAメチル化とは
遺伝子発現のON/OFFを決める仕組み。
メチル基が付くと遺伝子は不活性化。
◇FSHDとDUX4
本来発現すべきでないDUX4が働き筋細胞にダメージ。
FSHD患者はDUX4領域のメチル化が低下。
◇発生初期の異常
発症の起点は受精直後のメチル化異常にある可能性。
◇iPS細胞研究
患者由来iPS細胞でDUX4領域の低メチル化を再現。
発症メカニズムの重要な手がかり。
◇今後の展望
直接的な「メチル化治療」はまだ困難。
仕組み解明を通じて将来的に治療開発につながる。
◇まとめ
FSHDは「遺伝子」だけでなく「発現制御(エピジェネティクス)」の病気。長期的研究を通じ治療の可能性が広がる。
講演報告④
「FSHDの診療と治療開発の概要」
講師:松村 剛 先生(大阪刀根山医療センター 特命副院長)
講演のポイント
◇疾患の基本理解
成人で最も頻度が高い筋ジストロフィーの一つ。
本邦では数千人規模の患者が存在すると推定される。
◇診断と病態
原因:通常は発現しないDUX4遺伝子の発現抑制機構の破綻
発症条件: 完全なDUX4の存在(4qAハプロタイプ)+DNAメチル化低下(D4Z4繰り返し配列の短縮[10回以下]または、クロマチン制御遺伝子の病的変化[これまでに3つの遺伝子が同定])。
初発症状:表情筋低下、肩甲帯の筋力低下(翼状肩甲など)、左右非対称性に冒されるのが特徴
下行性の進行、進行例において呼吸障害の頻度は高い。心筋障害も見られる。
◇ 多様性と課題
同じ家系内でも発症年齢・重症度は多様。
非典型例で診断されていない患者が多い可能性、診断後に受診中断する患者が多い
◇治療開発の現状
海外では複数の治験が進行中。
日本でも治験が行われる見込み
日本は専門機関への集約、患者登録・自然歴データ収集が遅れており、治療開発上の懸念となっている
◇患者会の役割
専門機関受診の必要性を周知
患者登録の推進
データ収集・治験参加基盤の整備。
◇今後の展望
国際協調的な自然歴研究体制の構築
国際治験の本邦での実施
◇まとめ
専門機関への患者集約と治験基盤を整えることが重要。
治療開発が進んでおり、自然歴データ整備が最優先課題。
★最後に
今回の講演会では、理学療法・栄養学・分子研究・臨床診療の各視点からFSHDを学びました。
共通して示されたのは「患者・家族・医療者・研究者が共に支える仕組みづくりの重要性」です。
FSHD JAPANは今後も情報発信・交流・研究支援を続け、患者さんの生活の質向上と治療開発の加速を目指してまいります。
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